平成23年一級建築士試験の合格発表を経て、JAEICから各種データと標準解答例が2例発表されました。
21年に製図試験の改変があり、3年目にあたる今年、対応する解答がどのレベルまで要求されていたのかについて、標準解答例により検証できるので、気づいた点について述べることとします。
データから読み取れること
- 1) 製図合格率、合格者数共に前年並み
- 平成22年は学科合格率15.1%、製図合格率41.8%、合格者数4476人であったが、今年は学科合格率15.7%、製図合格率40.7%、合格者数4560人となっている。学科合格後3年目まで製図受験が可能となった平成23年は製図受験者が増え、製図合格率は低下するものと予想されたが、データによると、学科受験者が自然減により少なかったことから、結果として製図合格率、合格者数共、前年並みであった。
- 2) 合否を分ける要因
- 類別パーセンテージを見ると、Ⅰ類40.7%、Ⅱ類30.5%、Ⅲ類18.1%、Ⅳ類10.7%となっており、平成22年に比べⅠ類とⅣ類に大きな変動は無いが、Ⅱ類が増え、Ⅲ類が減っている。これは図面採点による一次合格者が(Ⅰ+Ⅱ)7割を超え、記述を中心とする二次採点の(一次点との)合計点が合否を分ける大きな要因となったことを意味する。
標準解答例2例の特徴
- 1)「バリアフリー」と「バリアフリー法」は意味が異なる
- 掲載された標準解答例2例について、まず注目されるのは、2000m²を超える介護老人保健施設は特別特定建築物であり、計画に当たっての留意事項に「・・バリアフリー・・・に配慮する。」とあるにも関わらず、解答例1・2共に廊下有効については1.8mを確保しているものの、主階段と外部車いす通路についてはバリアフリー法の円滑化誘導基準を満たしていない点である。
- 主階段は共に22段で、解答例1の1階階高4m、解答例2の1階階高4.5mに対し段数が不足する。解答例2においては(「2回転」の記入漏れの可能性もあるが、)基準法さえも満たしていない。
- 外部車いす通路は誘導基準では柱型部分でも有効1.8m以上を必要とするが、解答例2では芯々1.5mとなっており、例1では歩車分離すら行われていない。また、主道路から風除室に至る経路確保も行われていない。
- これらを考察すると、センター側の意図としては、「バリアフリー」と「バリアフリー法」は意味が異なり、「誘導基準を満たせばより良いが、△3以上の大きな減点ではない。」ということであろうか。同様の傾向は平成22年の標準解答例にも見られたことから、解答例作成過程のミスとは考えにくい。
- 別の見方をすれば、主階段について段数は足りないものの、幅・踏面は誘導基準を満たしていることから、「誘導基準の階段についてはスペースで判定し、段数の不足については判定を行わない。」という意図ともとれる。
- 2) 中廊下の有効寸法
- 上記1)に類似した傾向として、問題文には「介護保健法、厚生省令、医療法に関する・・・考慮しなくてよい。」という一文が無かったことから、従来型の介護老人保健施設の中廊下は有効2.7m(これについての緩和事項は存在しない。)を必要とするが、解答例1では柱型部分の有効はこれを満たしていない。
- これについては、「計画に当たっての留意事項」に具体的な「厚生省令」「2.7m以上」等の具体的指示が無いことから、仮に減点があっても、バリアフリー法の誘導基準(有効1.8m)未満より減点幅が小さいものと考えられる。
- 3) ゾーニング
- ゾーニングの問題で、要求室欄に部門分けは無かったが、「計画に当たっての留意事項」では「施設利用者部門と管理部門を適切にゾーニングし、・・・」とある。解答例を見る限り、要求室の中で事務室、施設長室・応接室、会議室、洗濯室等の両部門に関連すると思われる室については、エントランスホール又は上階ホールに近い位置に配置されており、その他完全に管理部門と判断される室についてはグループゾーニングがなされている。ただし、前者のニュートラルな室が管理部門内にある時は、管理廊下と利用者廊下間のドアは無くとも減点対象ではないと考えられる。
- 4) 指定面積範囲外の減点
- 標準解答例1の浴室Bは指定面積のプラス1割を超えている。マイナス1割未満の場合は△4ないし5と考えられるが、プラスの場合は△2以下であることを意味しているようである。このような現象は去年の解答例にも見られたことから、ほぼ確実と言えるであろう。
- 5) 便所のブース数
- 標準解答例1・2共、1、2階の共用多目的便所のブース数は、用途と高齢者の利用者数を考慮し、充分に確保している。従って仮にこれが2ないし3以下であった場合、△3又は2の減点があるものと考えられる。
- 6) ゴミ置場の復活
- 平成20年以降、問題文に要求の無くなったゴミ置場については、22年の解答例では一旦姿を消したが、今年の解答例では復活している。これはゴミ置場が図面密度の要素の一つとして考えられているためと思われる。
- 7) 耐力壁の配置
- 平成21年、初めて指定された耐力壁の配置について、今回、「必要に応じて、耐力壁を設け・・・」とあることから、解答例2にはEWの記入が無いが、建物が正方形に近い安定したプロポーションであれば、純ラーメンでも減点は無かったものと思われる。
- 8) スパン割と構造種別
- 構造に関して、解答例1には11mスパンにプレストレストコンクリート梁の記入がある。また、解答例2は鉄筋コンクリート造としながらも、各階の大梁に9m(6m×9mグリッド)スパンが見られる。このことから、センターでは解答図面を単一スパンでまとめることよりも、各階のプランニング成立を可能とする自案に最も適したスパン割で対応し、必要な大梁の長さに対し的確な構造種別を選択できる能力の方を重要視しているようである。
減点における考え方の改変
平成21年には出題形式の改変がセンターから事前公表された。上記のような変化から、22、23年においては、図面における減点対象の絞込みと減点幅の圧縮があり、減点に対する考え方の改変があったことが伺えるが、これについての公式発表は無かった。
これを解釈する上で、そもそも採点に関する詳細は公表されてこなかったという原則として理解するか、不足している設備一級建築士への門戸を広げるための一時的措置で、2・3年後には元に戻る含みを持たせた改変と理解するべきか、22年の時点では保留としていたが、23年のⅡ類比率が30.5%と増えていること、22年同様、記述内容は設備項目に重点が置かれていることなどから、設備一級建築士への門戸を広げるための措置と考えるのが妥当であろう。
記述の重視
上記のような変化によって一次採点における点数分布は集中することとなり、合否を分ける要素として、一次採点に加算される二次採点記述の重要性が高まる。実際の二次配点(満点)は不明であるが、記述項目が10ではなく8項目で、設備の部分3項目が細分化されていることから、これらが計画3項目、構造2項目、計5項目と同等の配点がなされたものと推測される。また、設備同様、構造記述の(2)②「スラブ及び小梁の架け方について、工夫したこと」のように実務知識に関連ある出題となっており、人によって記述の採点結果が図面によるものより差が生じ易い問題作りとなっている。
記述の重視はここ数年来言われてきたが、あくまで図面が主、記述が従の前提であったが、今年の結果を見る限り、その重要度はほぼ等しいと考えられる。
改訂履歴
- 2011-12-20 公開